私の部屋の台所に棚がありまして,紙コップやストローを置いている所の隅にインスタントコーヒーが入っていて,小さな瓶の中に喜界島でとれたと言って頂いた少し黒い三温糖でしょうか?砂糖が出てきました。この砂糖には私の深い深い思い入れがあるのです。
もう10数年も前の話ですが,大和君という(鹿児島では優秀な高校と言われている学校を卒業)顔は中年の様ですが,素直で真面目な青年が私の所にお伺いに来ました。将来は医者になって多くの人を助けたいと,1日のほとんどを勉強している青年でした。大和君は2浪目で医者になる事だけに一生を掛けている様子で1週間に1回,私の所に電話をかけてきて30分くらい話をする事が彼の一番の楽しみだったようです。いつも時間が無いというのが大和君の口癖でした。
ある時,親御さんの許可が出て私の所に泊まりに来ました。その時,インスタントコーヒーの空き瓶に砂糖を半分くらい持ってきて,その砂糖でコーヒーを飲んで「先生,僕は医者になったらこの砂糖で又一緒においしいコーヒーを飲みましょう」と言って置いて帰りました。それから私はとても元気だったので,日本のあちこちに修行に行ったり,滝行に行って自分の心と体を鍛えていました。私は変わり者で絶えず非日常的な生き方をするために前だけを見て走り回っていました。この砂糖が出てきたお陰でハッと我に返ったような気がします。私が心から信頼していた作田さん,田仲さん,イールシングさん,アンダーソンさん,グレイソンさん,タン君,大和君,今の私があるのは彼らから大きな影響を受けたからです。どの方も今一番会いたい人たちです。話は戻りますが,その年大和君は医学部の試験に失敗して,私の所に来て思いっきり泣いたのを思い出します。
その時に一生懸命接していたのですが,今考えると私の努力が足りなかった事を悔やみます。
これを読んでいただいている皆様もこんな経験がおありだと思います。
人間は今,目の前にある事が後になっていかに大切の事か気付かずに生きているかを考えずに生きているのですね。友だちに話しましたら友だちは過去の事は忘れてこれからを大切に生きた方が良いのではと言う友だちと君は良い思い出がたくさんあって幸せだねと言う友だちいます。全部良い答えですね。その通りだと思います。今,目の前にいる友だちも私は数年後には大切な友だちになるのです。利害関係は全くありませんでしたので損得抜きで付き合えるのです。これも大和君のお陰だと考えます。大和君に会えれば幸せです。私の欲しいものはお金よりも気を遣わずに会える友だちなんです。大和君はきっと今頃,立派なお医者様になっているのでしょうね。